52%
「昨対52%です」
税理士から届くLINEには絵文字もスタンプもない無機質な文字が並んでいた。
心臓の音は高鳴り、神に願ったこの数日が意味のなかったものだと実感する。
そもそも、願っても現実が変わらないことなんて知っているつもりだった。
「残金が500万円ぐらい、このまま赤字が続くと年内4ヶ月で現金がなくなります。どうしましょうか。」
昔から金には苦労しない人生だった。
なんでも要領よく物事をこなし、金持ちにはなれなかったが毎日の生活には困らなかった。
けれど、今目の前にあるのは毎月130万円の赤字を出す小さな居酒屋と、残った現金500万だ。
しかも、この500万は公庫から借りた1000万の中から残った500万。店を潰したところで借金が残るのは明らかだった。

左手を大きく開いて、親指と中指でこめかみの辺りをゆっくりと押し、わざと大きな大げさな深呼吸をした。
自分の人生はこれで終わりなのだろうか。
この歳で店を閉めて借金を背負ってどうするのだろう。
自己破産すればいいのだろうか。
どうころんだとしても、自分の将来は決して明るくない。
「…コロナさえ無ければ。」
迷走
その日、自宅でビールを飲んだ。
喉に来る炭酸のシュワシュワはいつものビールなのだけれど、手の触感が変だった。
触っているのに自分の手ではないような、自分の目の前で起きていることなのに現実ではないような。
たいして美味しくもないビールを惰性で喉へ流し込み、パソコンへ向かった。
なんとしても、今夜中に店を立て直すヒントを見つけたいと思っていた。
コロナで苦しむ飲食店はうちだけではない。
みんなは、他のみなさんはどうやって生き残っているのだろうか。
【コロナ外出自粛】飲食店の閉店
https://japan-crc.com/ccn/news/2020_04_27_ti/
ああああ、こんなに潰れているのか。
そうだよな、ニュースになっているお店だけが潰れているわけじゃなくてうちみたいに誰からも知られるずにひっそりと死んでいくお店も。
いや、むしろその方が数が多いのかもしれない。
新型コロナ 大手飲食企業にも深刻な影響「ロイヤルホスト
https://maonline.jp/articles/royal_ootoya_chimney20200519
大戸屋が赤字転落でロイヤルホストも大赤字で1割を閉店と。
【緊急提言】新型コロナウィルスと共存していくために飲食店
https://news.yahoo.co.jp/byline/ymjrky/20200629-00185530/
飲食店の自粛解除へ。そうだ。ちょうど昨日で自粛営業が終わって明日からは普通に営業ができる。
その上で何をすればいいのだろうか。
記事によると、まずテイクアウトやデリバリーの見直しが急務らしい。
新型コロナで飛びついたテイクアウトやデリバリーだが、多くのお店は大した成果もなく惰性で続けていると。
本当にその通りだ。
テイクアウトは1日1つ注文が入ればいい方で、デリバリーはどうなっているのかスタッフに聞いてみないとよくわからない。
もし新型コロナの影響で閉店を考えた飲食店がオンラインに対応したら
https://telewo-rk.com/restaurant/1/
閉店を考えた飲食店…か。確かに閉店も考えている。
だからと言って、素直に閉店をする気にもなれずでも、いま自分が何をやればいいのかはわからなかったた。
何かヒントでもいい、自分が何をすればいいのか。
記事を読みながら妙に心をえぐられる言葉が目に止まった。
本質的な価値?
変化に対応した者だけが?
どうやったら喜んでくれるか

記事の内容は、コロナの影響で潰れそうなった飲食店を、にゃんこ先生という師匠のアドバイスで立て直していくありふれた内容だったが、にゃんこ先生の言葉は自分の胸をえぐるような本質だった。



気がつけば視界が熱い液体でぼやけていた。


初めて自分のお店を持ったときのことを思い出した。
開店の準備も仕入れも内装工事も何もかもが楽しかった。
まぶしくてキラキラして、どう悦ばせようか、次は何をやろうかと、もう毎日のようにイベントや新しい試みを試して。
でもコロナ以降、自分の脳内は
「どうやったらお客さんが来るか?」
でいっぱいだった。
思い返すとそこにはお客さんをどう喜ばせようとか、お客さんのことなど何も考えていなかった。原価を削って、それが気がつかれないように工夫して。割引チケットを配ったり、Twitterを始めたり(フォロー552でフォロワー48)。
気がつけば猫背で思いっきりパソコンの画面を覗き込んでいた。
座ったまま、背伸びをして両腕を後ろにぐるぐると回す。
椅子に深く腰掛け直して、ギシっと音を立てる椅子とともに背もたれにのけぞって天井を見つめた。
どうせ潰れるなら、今までの行動を反省して、どうやったらお客さんが喜んでくれるか?を突き詰めて年内を営業してみよう。
心の中でそう決めて、両手で顔を覆って大きなあくびをした。
そうはいっても、やはり不安だ。
にゃんこ先生
翌朝あまり熟睡できずに何度かトイレに起きたせいか、まだ頭がぼーっとしたまま目が覚めた。
昨夜決めた通り、どうやったらお客さんが喜んでくれるのか。これを指針として今後の店舗運営を改善していきたい。
具体的には…どうしたものか。
昨夜よりはクリアになった思考を巡らせながら、慣れた手つきで湯を沸かし、ペーパーフィルターで2人分のコーヒーを淹れる。
1杯はそのままホットで、2杯目は冷めた頃に氷を入れて飲むのが朝のルーティンだった。
コーヒーを片手にmacbookを開き未読のLINEを確認していると、見慣れぬねこのアイコンからmsgが届いていた。
なにかの企業アイコンだったかと、右手の中指をmacbookのキーボードにトントントンと押し付けながら左手を顎に触れる。

にゃんこ先生!!
間違いない、昨夜やるべきことが決まった安堵感でもう一本ビールを空け、その勢いで例の記事に載っていたにゃんこ先生にLINEを送ったのだった。まさか返信が来ているなんて。

たしかに、コロナ以降テレワークとかZOOMとか会社員の働き方が変わったということは聞いたことがある。ホテルや飲食店でもテレワークプランがあるというニュースがたまにLINEニュースでも流れていた。



テレスペ
https://telewor.com/
見てみると、空席を登録すると利用したい人がお店に来てくれるらしい。
いくらかかるのだろうか。
でもせっかくにゃんこ先生が紹介してくれたのだから、いいサービスなのだろう。
さっそくスペース掲載申請・問合せ、名前とメールアドレスと住所と入れて、内容…
売り上げが5割近く減りまして、どうにかしなきゃと模索する中でにゃんこ先生の記事を読み、にゃんこ先生からテレスペを紹介されました。
ワークスペースを運営するために費用はどれぐらいかかるのでしょうか?

テレスペの登録
問い合わせを送るとすぐに資料がメールで届いた。
よく見たらサイト上にも資料は貼ってあったのだが、もうそれどころじゃなくて気がつかなかった。
資料を読むとワークスペースに必要なものは、
・Wi-Fi
・電源
・机
・椅子
この4つらしい。
幸い飲食店なので自分の店も一通り揃っている。
あと、初期費用や月額費用は不要で、無料でワークスペース運営が始められるらしい。
実際に来客があって売り上げが立った時に、決済もテレスペが自動でやってくれて、その時に手数料を抜いて差額が振り込まれるという。
なるほど。
ということはレジやお釣りを用意したりもなさそうだ。
まだよくわからないけれど、ワークスペースを運営するために新しく必要な設備などは一切ないことはわかった。これはやってみるしかない。
テレスペからの返信































その際に、お店の本業の宣伝やお知らせが書けるのですが、何か本業の方につながるような案内や割引など伝えたい事はありますか?





審査通過次第登録しまして、公開となります。明日以降でご希望の公開日はございますか?



わかりました。ではよろしくお願いします。
ワークスペース営業の始まり
テレスペの登録はすぐに終わり、公開したと連絡がきた。



ふむふむ。
・ユーザー用LINE
・管理用LINE
2つに登録すれば完了らしい。
まずユーザー用のテレスペLINEを友達追加して、
「法人利用」と4文字入力して、
テレスペからもらった法人IDと認証コードを入力っと。
おお、うちの会社名が出てきた!これで登録完了か。
それでもう一つ、管理画面用のLINEを友達に登録すると…おお!
これが管理画面か。
なるほど自分で変えられるのか。
店早く閉める時とかこの『本日営業停止』ボタン押せばいいのかな。
利用者側の画面はどうやって出すんだ?
ああ、もう一つのLINEの方か。

はいはい、何で探せば出ますか?

えーっと、これなんてサービスでしたっけ?

テレスペ、あったこれか。へーLINEなんだ。
おおー!載ってますね!!最寄りのスペースって、そりゃ私たちお店にいますからいつでも最寄りはうちですよね。
使うにはクレカ登録が必要っと、めんどくさいな、、、
店長!私使ってみるんで、後でお金くれます?

じゃあクレカ登録して完了!ちょっと外からコント風に入りますねw
「こんにちはーテレスペ使えますか?」


おおおおおおおお

LINEでWi-Fiパスワード来てるるるる!!!
お水どこで貰えばいいんですか?ちょっとわかりづらいかも。

おお、管理画面てきなものが?

じゃあ帰りまーす

おおおおおおおおお

すごいこれお金も自動でクレカ決済なんですね、だから最初にクレカ登録が必要ななのか。すご。へー。
これでいくらもらえるんですか?

すご。。。
これ今って4席って出てるんですけど、お店めっちゃ混んだらどうします?

おおおお。
なぜか30人の団体さんで全席埋まったら?


おおおおおお。未来。
「こんにちはーテレスペ使えますか?」
まじか!?

Wi-FiなどはLINEで飛んでいると思います。

集客効果
あれからお店がどうなったかというと。
ランチの時間は満員になることがないから11:00からずっとテレスペに掲載してる。
もちろん、お客さんが喜んでもらえるように。
スペースの利用代金で副収入が得られることよりも、単純に初めてお店に来てくれる人が増えたのが嬉しい。
「よく通るから知ってた」とか、
「場所は知ってたけど入る勇気がなかった」
などと言われると、テレスペはワークスペースの運用ツールといいながら、無料の集客ツールにもなっていることがわかる。
また、お客さんとの接点が増えたことで、確実に常連さんが増えた。
以前はお客さんと話すことなどなかったのだけれど、流石に昼間にテレスペで来てそのまま残ってビールを飲む方とは自然と仲良くなった。
仕事が終わった後にそのままお店のハッピーアワーとか最高でちょっと羨ましい。
不思議なもので、お客さんとよく会話をするようになってからお店の売り上げはどんどん回復していった。
どうやったら喜んでくれるかな?
と考えていると、新メニューの試食をお願いしたり、コーヒーをサービスしたりして。話すことも多くなった。
思えば、自分も全く会話のないお店よりも、店長の顔を見に行くような仲がいいお店があれば、暇な時に顔を出すだろう。なぜ今までそれをやらなかったのか。
切迫するとどうやったらお客さんがきてくれるかばかり考えて、どうやったら喜んでくれるかなんて考えてなかった。
常連さんの勧めで、Twitterも再開した。
フォローするしかやり方がわからなかったTwitterだけど、朝のオープンの時、ランチメニュー、夜のお通し発表と投稿して、お客さんともTwitter上で絡んでいる。










リンク集
テレスペ https://telewor.com/